爪に、ある日突然、黒い縦線が現れたり、シミのようなものができたりすると、多くの人が不安を感じるでしょう。その不安の根源は、「これは皮膚がんなのではないか?」という心配だと思います。そして、その心配は決して杞憂ではありません。爪にできる黒い色素沈着の中で、最も警戒しなければならないのが、皮膚がんの中でも特に悪性度の高い「悪性黒色腫(メラノーマ)」、専門的には「爪甲悪性黒色腫」または「爪下悪性黒色腫」と呼ばれるものです。この病気を疑った場合に、真っ先に受診すべき診療科は「皮膚科」、それもできれば皮膚腫瘍の診断に精通した専門医がいる医療機関です。悪性黒色腫は、皮膚の色素を作る細胞(メラノサイト)ががん化したもので、爪の下の皮膚(爪床)や、爪を作る根元の部分(爪母)に発生します。初期症状は、爪に現れる一本の黒褐色から黒色の縦線(爪甲色素線条)です。もちろん、黒い縦線がすべてがんなわけではありません。単純な「爪のほくろ(爪母斑)」や、外傷による内出血、加齢による変化、薬剤の副作用など、良性の原因も多くあります。しかし、悪性黒色腫を疑うべき、いくつかの危険なサインがあります。具体的には、(1)縦線の幅が6mm以上と広い、(2)線の色が均一でなく、濃淡のむらがある、(3)線の境界が不明瞭で、にじんだように見える、(4)短期間のうちに、線の幅が広がったり、色が濃くなったりする、といった変化が見られる場合です。そして、最も重要なサインが、爪の周囲の皮膚にまで黒いシミが広がっている(ハッチンソン徴候)場合です。進行すると、爪が割れたり、変形したり、盛り上がって潰瘍ができたり、出血したりすることもあります。皮膚科では、まず「ダーモスコピー」という特殊な拡大鏡を使って、色素沈着の状態を詳細に観察します。ダーモスコピー検査で悪性の疑いが強まった場合は、診断を確定するために、局所麻酔をして爪と病変部の一部を切り取って調べる「生検(組織検査)」が行われます。悪性黒色腫は、進行するとリンパ節や他の臓器に転移しやすく、生命に関わるため、早期発見・早期治療が何よりも重要です。爪に気になる黒い線を見つけたら、絶対に放置せず、皮膚科専門医の診察を受けてください。
爪の黒い線やほくろ、最も警戒すべき悪性黒色腫(メラノーマ)