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  • 熱なしヘルパンギーナ地獄の体験談

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    全ての始まりは、喉の奥に感じた、ほんの些細な違和感でした。熱はなく、体もだるくない。私は、「少し寝不足かな」と、いつもの喉スプレーを数回噴射して、その日は仕事を終えました。しかし、翌朝、私の喉は、ただの違和感から、明確な「痛み」へと、そのステージを変えていました。そして、鏡の前で、大きく口を開けて、喉の奥を覗き込んだ瞬間、私は、これから始まる地獄を予感しました。のどちんこの両脇あたりに、まるで赤いインクを散らしたかのように、無数の小さな発疹が、びっしりとできていたのです。それでも、熱がないことを良いことに、私は「気合で治るだろう」と、その日も会社へ向かいました。それが、最悪の判断でした。午後になる頃には、喉の痛みは、焼けるような激痛へと変わり、唾を飲み込むことさえ、激しい苦痛を伴うようになりました。同僚との会話も、声を発するたびに、喉の奥にナイフが突き刺さるような痛みが走り、次第に口数が少なくなっていきました。その日の夜、私は、夕食を一口も食べることができませんでした。水を飲もうとしても、その水が、まるで硫酸のように、喉の傷口にしみるのです。空腹と、喉の渇き、そして、一向に治まらない激痛。熱がないのに、体は確実に、衰弱していきました。翌日、ついに観念して耳鼻咽喉科を受診すると、医師は、私の喉を見るなり、一言。「ああ、これは典型的な、大人のヘルパンギーナですね。熱が出ない人も、たまにいますよ」。そして、処方された鎮痛剤を飲んだ時の、あの、痛みがすーっと引いていく感覚。私は、文明の利器のありがたさに、心から感謝しました。結局、まともに食事ができるようになるまで、一週間近くかかりました。あの体験を通じて私が学んだのは、熱の有無は、決して病気の重症度を測る、絶対的な指標ではない、ということ。そして、喉の痛みは、時に、人間から、生きるための基本的な営み(食べること、飲むこと)さえも、奪い去る、恐ろしい症状なのだということでした。