手のしびれの原因は、首の骨や、脳の病気だけではありません。実は、私たちの体全体の健康状態を映し出す、内科的な病気が、その背後に隠れていることも、決して少なくないのです。特に、健康診断などで、血糖値の異常を指摘されたことがある方は、そのしびれが、「糖尿病」という、静かなる、しかし深刻な病気の、合併症のサインである可能性を、強く疑う必要があります。糖尿病が、手のしびれを引き起こすメカニズム。それは、「糖尿病性神経障害」と呼ばれる、糖尿病の三大合併症の一つです。長期間にわたって、血液中の血糖値が高い状態が続くと、過剰な糖分が、全身の細い血管や、神経細胞そのものに、ダメージを与えていきます。そして、特にダメージを受けやすいのが、体の末端、つまり手足の、感覚を司る「末梢神経」なのです。この末梢神経が、高血糖によって、ゆっくりと、しかし確実に、蝕まれていくことで、しびれや、痛みといった、様々な異常な感覚が現れます。糖尿病性神経障害によるしびれには、いくつかの特徴的なパターンがあります。まず、しびれが、左右対称に、そして足の先から始まり、徐々に手の指先へと、上がってくるように現れることです。その感覚は、しばしば「ジンジン」「ピリピリ」とした、正座の後のような、不快なしびれとして感じられます。また、症状が進行すると、「手袋や、靴下を、一枚多く履いているような、感覚の鈍さ」や、逆に「風が当たっただけで、痛い」といった、知覚過敏が現れることもあります。さらに、感覚が鈍くなることで、怪我や、火傷に気づきにくくなり、そこから細菌が感染して、足が壊疽(えそ)してしまう、という最悪の事態を招く危険性もあります。もし、あなたが、このような特徴的な、両手足のしびれを感じており、かつ、健康診断で「血糖値が高い」と指摘されたことがある、あるいは、最近「異常に喉が渇く」「トイレの回数が増えた」「急に体重が減った」といった、糖尿病を疑わせる他の症状がある場合は、まず相談すべきは、整形外科ではなく、「内科」あるいは「糖尿病内科」です。血液検査で、血糖値や、ヘモグロビンA1c(過去一、二ヶ月の血糖値の平均)を測定し、適切な血糖コントロールを開始することが、しびれの進行を食い止め、あなたの未来の健康を守るための、最も重要な一歩となるのです。